ポリティカル・フィクション

(正編)2004/1
 私はあるとき古代中国を扱う時代小説を読んでいたはずが、気がつくと合衆国のイラク占領に関するポリティカル・フィクションを読んでいました。作中では合衆国大統領とその側近が重い責任を負った人々に特有の深刻な会話を交していました。

ラ「先日のイラク征伐は近ごろの椿事でした。あと味はどうですか」
ブ「たまにはよいものと思った。――が先生、このあとの策は予にないのだ。何ぞ賢慮はないかな」
ラ「策は三つあります。どれでもわが君の意に召した計をお採りになるがよいでしょう。
 一策は、いま獄中のサダムを恫喝して有無なく改心させそのまま親米政権の長に戻す。このこと必ず成就します。故にこれを上策とします。
 第二は、イラク共産党を一貫して支援する。これは中策と考えられます。
 どこにも徹底的な支援をせぬまま選挙を実施させ政権を親イラン派に渡してしまった後で、新政権との交渉に入るという手もあります。……が、これは下策にすぎません」
ブ「……上策はとりたくない。また、中策はあまりに急すぎて、本国で追求を受ければ、一敗地にまみれよう」
ラ「では、下策を」

 このときラ氏がいかなる表情をしたかは小説に描かれておりませんでした。


(続編)2020/1
 私はあるとき古代中国を扱う時代小説を読んでいたはずが、気がつくと合衆国の中東政策に関するポリティカル・フィクションを読んでいました。作中では合衆国大統領とその側近が重い責任を負った人々に特有の深刻な会話を交していました。

 「先日のソレイマニ司令爆殺は近ごろの椿事でした。あと味はどうですか」
 「たまにはよいものと思った。――が先生、このあとの策は予にないのだ。何ぞ賢慮はないかな」
 「国防長官を殺して天下に謝罪なされませ」
 「それ以下で済む方法はないか」
 「それ以上の方法はあってもそれ以下の方法はございませぬ」

 大統領は笑って答えなかったと書いてあったような気がします。