『遠き旅路』(能島龍三/新日本出版社)

 日中戦争モノって年に一冊は何かいい本が出る気がしますね。大きな戦争だったってことですかね(適当)。

 日中戦争で戦った一人の日軍騎兵(後に自動車化歩兵)の遠い旅路を描く小説。途中まで「ああすごくていねいに書いてあるな」「香本さんちょっと便利すぎないか」「すぐれた作品だが作品を『ケッサクまたは傑作』にする最後のスパイスの一振りを欠く気がするな」程度に思って読んでいた。のだが終盤で個人的に忘れがたい箇所がひとつあって。岡田が佐藤と別れるシーン(p173)と戦後の岡田の回想(p245)が微妙に食い違っておりしかも「ああそう考えれば筋が通るな」「人間の記憶はこんなふうに整理されていくのだなあ」と納得がいく。個人的に忘れがたい箇所のある本なので手放せない。