項羽と劉邦 King's War/楚漢伝奇(TVドラマ)

ネタバレ度:3/4(やや高)


 項羽と劉邦の戦いを描く大長編TVドラマ。
 見ました。面白かったです。
 私見では中ドラって韓ドラに比べて得てしておおざっぱだったり粗雑だったりするんですが(じゃあなぜおまえは韓ドラを見ずに中ドラを見てるんだって、それはつまり日ドラにないサムシングが欲しいからです)、『項羽と劉邦 King's War/楚漢伝記』、長いよこれ、以下楚漢と略、は割合緻密によろしいものです。


 ちょっと前に日本でも序盤だけ放映した『項羽と劉邦 はるかなる大地/秦漢英傑』という人形劇がありました。項羽と劉邦と虞姫と呂后が最高でした(また語る折もありましょう)。実質20分チョイのモノなのでメインキャラがよければ何だって許されるですね。いっぽう実質45分モノの楚漢は脇役がみんないいです。
 ことに章邯と蕭何に大変見るべきものがありました。


 秦の将・章邯は何度となく叛軍を破る名将ですがひとたび楚軍に降ってからは少なからず冴えを欠きます。従って「そこに何があったのか」が再話者の腕の見せどころになります。
 さて楚漢ではこうでした: 愛する秦の皇女(註:オリジナルキャラクター)のために戦う章邯、だが皇女は秦国を牛耳る宦官・趙高の暗殺を企てて惨殺される、趙高は「章邯は政治的なアタマが無く、しかも決して祖国を裏切れない種類の人間だ」と知っているため章邯を罰しない、だが抜け殻となった章邯は以後かつての指揮の冴えを二度と取り戻さない。最高。


 蕭何がまたよかった。「いいもんキャラにも欠点は5つは作っておけ」という台詞があります。この手法は有益です、しかしこれが唯一の手法ではありません。何を言いたいかというと「致命的な」欠点はたった1つでもキャラを魅力的に見せるのです。楚漢の蕭何は風貌が立派で見通しが確かで学問があって情にあつく決して驕らず、そして予想外の事態が起るとたちまちパニクり、味方を処刑しようとして使えもしない剣を引き抜きます。一瞬でキャラの全部が見て取れます。最高。


 このほか、
 デブで金に汚いがとびぬけて有能な策士・陳平……
 「エキストラその3」みたいな風貌に似合わぬ名将・韓信……、
 最初っからウルトラ不穏な劉邦夫人・呂后……
 と、劉邦陣営中心に脇役がみんないいです。


 もちろん、
 ふだんはなんだか『ドラえもん』のスネ夫っぽいがイザという時には決して味方を見捨てない男・劉邦……
 元仮面ライダー役者・ピーター・ホー演じるところの個人戦闘能力最強の覇王・項羽……
 もいいんですが、しかし私項羽周りでは個人的に好かないとこが1箇所とどう考えてもダメなとこが1箇所あってですな。


 個人的に好かないとこ:項羽が秦の捕虜を大量生き埋めにした後で「しかたなかったんじゃー」と虞美人に言い訳するところ。あそこだけ現代人に寄せすぎてる気がしてならないんですが、ひょっとしてわざわざ外国(*)から引っ張ってきたスタアに気をつかったんですかね……

 (*)台湾が中国スタッフにとって外国ということになるのかどうかよう知りませんが少なくとも「面倒そうな感じ」はするんじゃないかと思います。最近のハリウッド映画の中国への配慮っぷりは気になるといえば気になるんですが、個人的には最近の中国ドラマの台湾への配慮っぷりも気になるのです。基本的によいことだとはおもいますがしかし何か複雑な気分になるのはやむをえないというか。ほらアレですよ純粋芸術の純粋性がそこなわれている気がするというか(いや大河ドラマは純粋芸術じゃないだろう)


 どう考えてもダメなとこ:彭城の戦いで項羽の事前機動をしっかり描いておきながら項羽が突撃開始すると劉邦の避難シーンへ直行。いやちょっと待て。制作費が? 尽きた? 項羽初陣シーンとかで使いすぎて?
 対するに垓下の戦いはきちんと尺取っていたのがよかったですね。胸をなでおろしました。
 まあこのテの大河ドラマはキャラに一貫性があってラストバトルがしっかりしてれば途中ちょっとぐらいナニがアレでも誰も文句は言わないのです。そして途中のナニがアレ度は比較的低い気がします。


 当ブログでは大変久しぶりに人様にもおすすめできる一本なんですが45分×80話というのはやはり長いやもしれません。秦漢期モノがお好きな方はぜひ。


追記 2014-10-00
 ネタバレ度表記を4から3に修正しました。